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思いがけない言葉に一同からザワめきが立った。
「信長殿に才覚…」
「ならば殿は、信長殿がうつけ者ではないと、そうお思いなのですか!?」
家臣に問われ、道三はカッカッカと小気味良い笑い声を響かせた。
「応よ。予てよりそう思うておる。眉心紋消除 それを知る術の一つとして、帰蝶を信長にくれてやったのじゃ」
道三は唖然とする家臣たちを尻目に、真新しい一通の書状を懐から取り出すと、
戦場で刀をかざす勇将の如く、それを高々と真上に振り上げた。
書状の上包みには美しい書体で『御父上様へ』と記されている。
「先達て帰蝶から届いた文じゃ」
家臣たちの目が一斉に、包まれたままの書状に向く。
「ここに、此度の平手政秀の自刃はあくまでも本人の意思によるものであり、信長殿が引き起こした悲劇ではない事。
また信長殿は、三国※一と申しても過言ではなき利発者故、必ずや儂の意志に沿うてくれるであろうと、そう書かれておる」
一同は思わず「おぉ…」と小さな驚きの声を漏らした。
「帰蝶には輿入れ前に散々言い聞かせておいた故、誤った見極めなどしておらぬであろうが、あれも女じゃ。
美丈夫と評判の信長殿から夜毎に愛撫を受けておれば、以前に比べ、目もいくらか曇ったやも知れぬ」
姫の言葉を易々と鵜呑みには出来ぬと、道三は慎重な姿勢を取った。
「織田信長……果たして噂通りのうつけか、はたまた類い稀なる才覚の持ち主か。
出来る事ならば、本人と直に膝を突き合わせ、その人となりを確認致したいものじゃ」
道三が冗談混じりに呟くと
「──それは名案にございます」
一際凛とした声が家臣団の中より響いた。
主は、あの光秀である。
(※三国……日本、唐(中国)、天竺(インド、シャム)の事。濃姫の時代、世界はこの三国から成り立っていると考えられていた)
「殿が直々に、信長殿と御対面なされてみては如何でしょう?」
「何っ、儂がか…?」
「はい。信長殿との会見の場を設けるのでございます」
その提案を聞き、道三はふむと腕組みをした。
「畏れながら、殿と信長殿は婿と岳父の間柄。御会見の場を設けるのに、いったい何の憚りがございましょう?」
光秀が半ば説得するように言うと、道空は厳めしい表情をして
「さればこそじゃ。向こうが伏して会見を願い出るのならばいざ知らず、岳父たる殿から婿殿に会見を願い出るなど…」
「いや待て道空。──光秀よ」
「はっ」
「会見を開き、万が一信長殿が、儂の眼鏡に叶わぬ男であった時は如何する?」
「その場で斬り捨てるべきかと」
間髪を入れぬ光秀の返答に、道三は口の端を緩くつり上げた。
それから幾日か経った日の、ある麗らかな午後のこと。
那古屋城の奥御殿では
「──お方様、こちらの反物は如何でしょう? 雅やかで、朝顔の模様が夏らしゅうございます」
「──でしたらこちらの反物も、淡い藍の色が何とも涼しげにございますよ」
濃姫が侍女たちと共に衣装部屋に集まり、早くも夏物の着物を仕立てにかかろうと、色とりどりの反物を広げ見ていた。